「儀式」との決別。真冬の焙煎を変えた、常時18℃と雪の恩恵
真冬日と焙煎機 外は連日の真冬日。ここ青森・猿賀の冬は、容赦なく全てを凍らせにかかる。 昨年までの私は、この寒さと真っ向から向き合うことを半ば是としていた。 朝、冷え切った焙煎小屋に入り、暖房をつけ、焙煎機に火を入れる。 鉄の塊が温まるのを待ちながら、自分自身の体と心もゆっくりと起こしていく。 それは一種の「儀式」とも言える時間だった。 寒さの中で感覚を研ぎ澄ますその工程に、ある種の美学を感じていたのも事実だ。 けれど、肝心の焙煎はどうだったか。 「準備は完璧なはずなのに、どうも味がまとまらない」 釜の前で考え込み、首を傾げる日が少なからずあった。 夜通し保温という実験 今年、私はその「儀式」をやめてみた。 寒波に打ち勝つため、そして機械の不調を防ぐため、夜通しヒーターをつけっぱなしにする選択をしたのだ。 小屋の室温を、常時18℃にキープする。 ただそれだけのことだが、効果は劇的だった。 朝、小屋に入った瞬間から空気が柔らかい。焙煎機も、そして出番を待つ生豆たちも、芯まで温まっている。 以前のように長い暖機運転を待つことなく、すぐに焙煎に入れる。 何より驚いたのは、「焙煎にブレがない」ことだ。 1バッチ目から狙った通りの熱が入る。昨年の悩みだった「味のまとまりのなさ」が嘘のように消え、クリアで安定したカップが出来上がるようになった。 雪がくれた「かまくら効果」 ふと心配になったのは電気代のことだ。 これだけの寒波の中、一晩中暖房をつけていたらどうなるか。 しかし、請求書を見て拍子抜けした。消費量はさほど膨らんでいない。 理由は、小屋の外を見れば一目瞭然だった。 屋根も壁も、こんもりと積もった雪に覆われている。 実はこの雪が、天然の極厚な断熱材となっていたのだ。 雪国ならではの「かまくら効果」。 外の氷点下の冷気を雪が遮断し、中の熱を逃さない。だからヒーターは最低限の稼働で、設定温度の18℃を維持できていたらしい。 厄介ものだと思っていた雪が、実はお財布と焙煎環境を守ってくれていたとは。自然とは面白いものだ。 精神の安定が味を作る 儀式のように心を整える時間も尊いが、環境を物理的に整えることで生まれる「余裕」は、もっと尊いものかもしれない。 「今日は機嫌が良いだろうか」と機械の顔色をうかがう必要がない。 不安要素がないから、純粋に豆の変化だけを見つめられる。 結果として、それが味の安定につながる。 静寂に包まれた雪の小屋で、今日も焙煎機は快調に回っている。 この冬の焙煎は、今までで一番楽しいシーズンになりそうだ。 編集後記 「儀式」はロマンチックですが、毎日の品質を保証するのは結局「物理」なんですよね。でも、その物理を支えているのが「雪」という自然現象だというのが、なんとも味わい深いです。